銀座 麺屋ひょっとこで和風柚子柳麺
久しぶりに都内へ出た。健康診断だった。
いつからだろう、都内に出ることが「特別な用事」になったのは。以前は当たり前のように山手線に揺られていたのに、今では少しだけ肩に力が入ってしまう。
健診は思いのほか早く終わった。採血の看護師さんがやけに無口で、何だか旧ソ連のアスリートみたいな雰囲気を漂わせていたのが印象的だったけれど、それ以外は特筆すべきこともなかった。
昼飯をどうしようかと少し考えて、「ああ、ひょっとこに行こう」と思った。自然に。何の脈絡もなく。でもそういうのが、だいたい正解なんだ。
交通会館の地下に降りると、拍子抜けするほど行列が短かった。奇跡ってほどじゃないけれど、東京ではたまにそういう小さな幸運がひょこっと現れる。
ほどなくして席に通され、和風柚子柳麺を頼む。名前だけで俳句が詠めそうなラーメンだ。
スープを一口すすった。
おお、とボクは思う。これは、うまい。
澄んだ出汁に柚子の香りがふわっと広がる。まるで冬の朝に飲む白湯みたいだ。何かが身体に沁み込んでいく感覚。そういうのが確かにあった。
麺はつるりとしていて、やさしい。あの、人生の中で必要なやさしさのうちのひとつだ。
チャーシューは相変わらずトロトロで、どこか懐かしい記憶を呼び覚ます。誰かの家でご馳走になった、上等なおかずみたいな味がする。
気がつけば、どんぶりは空になっていた。時間がスープに溶けていくみたいだった。
もうそんなに頻繁には都内に来ることもないけれど、またいつか、きっと来ようと思う。ひょっとこの味は、きっとその時まで変わらず待っていてくれる。そんな気がした。
麺屋ひょっとこ 交通会館店 (ラーメン / 有楽町駅、銀座一丁目駅、銀座駅)
昼総合点★★★☆☆ 3.0

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