天下一いずま の 天龍でパイコーメン
川崎での用事を一つ終えて、ふうと一息つく。まだ昼には少し早い時間帯で、空の色もどことなく中途半端だった。湿気を含んだ風がゆるやかに流れていて、それが街の建物の隙間を縫うように抜けていく。僕はなんとなく銀座街のほうへ足を向けていた。特に何を食べたいというわけでもなく、ただ胃袋の隙間に何か温かいものを入れたかったのだ。
銀座街の入口にある「天下一いずま」の天龍は、案の定、おじさんたちで賑わっていた。ネクタイを緩めた人、スマホで馬券を確認してる人、誰かに似た背中をした人。ああ、なんだか今日はここじゃないな、と思った。
そうだ、仲見世通りにも天龍があったっけ。思いついたら、僕はもうその方向へ歩き出していた。川崎の町は、決して美しいわけではないけれど、妙に人懐っこい匂いがする。まるで古いジャズのレコードみたいな町だ。少し埃っぽくて、でも温かい。
仲見世の天龍に入ると、店内にはカップルと一人客が一人。空気がふっと軽くなった気がした。いくつかある天龍の中でも、ここは一番静かかもしれない。僕は前から目をつけていたパイコー麺を注文した。そういえば、有楽町の万世麺店に通っていた頃は、週一でパーコー麺を食べていたっけ。あれはあれで、ちょっとした僕の儀式みたいなものだった。
しばらくして、パイコー麺がやってきた。湯気がふわりと立ちのぼる。少しカレー風味の排骨をひとくち。うん、これはいい。肉はしっかりとした噛みごたえがあって、噛むたびに脂の甘みがじんわりと広がる。スープは優しい味。喧騒を背にして店に入った僕の心を、じんわりとほどいてくれるような味だった。
麺には特別な何かがあるわけじゃない。でも、このスープと排骨と一緒なら、それでいいんじゃないかという気持ちになる。ちょっと量が少ないかなと思ったので、やっぱり餃子をつけるべきだったな。
完食したあと、満腹というよりは満足という言葉がしっくりくる。会計を済ませ、店を出た。外の空気は少しだけ涼しくなっていた。たぶん、また来るだろうな。何かを埋めるように。あるいは、何かを忘れるために。

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