川崎 カレーハウス ピヨ でカツカレーを頂いた。
──カツカレーというやつは、ある種の呪いである。
一度口がそれを欲してしまうと、もう他のどんな料理も「仮の姿」に見えてしまうのだ。まるでこの世のすべてが、仮想空間における「代替カレー」になってしまう。というわけで、先日虎ノ門の「とらのもん」でカツカレーを食べてからというもの、ボクの味覚中枢は完全にカツカレーにロックオンされたままである。
その日は川崎に用事があった。まさに天の采配。あとはカツカレーをどこで食べるかを決めるだけで、ボクの一日は黄金の結末を迎えることになる──はずだったのだが、問題は「どこで」だ。かつや?松のや?それはそれで良いのだが、今日のボクはもっとこう、「ここでしか味わえない異次元のカツカレー」を所望していた。そう、言うなれば「並行世界のとびらをこじ開ける」カツカレーである。
そうだ、「ピヨ」にしよう。
名前だけ聞くとひよこの雛が群れをなしてカツカレーを提供しているような錯覚に陥るが、実際は清潔でシンプルなカウンターだけのスタンドカレー屋だ。アゼリアの改装時に内装も刷新されたらしく、スタンドのくせに洒落てやがる。
券売機ではなく口頭注文。ボクは迷いなく「カツカレー」を発声。情報によれば、ここは揚げたてのカツを提供してくれるらしい。ありがたい。揚げ置きのカツ丼も嫌いではないが、カツカレーにおいてはそれは一種の背信行為と言える。儀式には新鮮な供物を──これ鉄則。
さて、しばしの静寂ののち、ボクの前に「現れた」。カツカレーの登場である。
うほー。香りで頭が真っ白になった。つばが、つばが止まらん。まずはカツを一口。ザクッ、サクッ、ジュワッ、熱ッ──うまッ! 三拍子どころか五拍子そろった完璧なカツである。続いてカレー。おや、これは……あまり辛くない。だがコクが深い。まるで熟成した哲学書のように、静かにボクの舌に訴えてくる。スタンドカレーらしいシンプルさの中に、無限の奥行きを感じる。
そういえば、スタンドカレーといえば横浜ジョイナスの「リオ」を思い出す。あそこも妙にうまい。そして「リオ」と「ピヨ」。語感的に似ている。もしかして兄弟店?異母兄弟?同じ親戚のうどん屋で育てられた?……調べてみたけど、さっぱりわからんかった。ネットも万能じゃないのだ。
そんな思索を巡らせつつ、卓上のスパイスで辛さを追加し、ボクはカツカレーと一体化していく。ああ、至福。気がつけば皿は空っぽ。胃袋は満足し、脳内にはセレトニンが舞い散っている。
量はちょうど良い。つまり、若者には物足りないかもしれない。だがボクのような中年にはこれがいいのだ。多すぎると翌日の会議で眠くなるし、少なすぎると午後のメールに殺意を込めてしまう。
締めに冷たい水をゴクゴクと飲む。これがまたうまい。透明な、ただの水が、今この瞬間だけは「宇宙の祝福」のように思える。
うまかった。ボクはカレーの残り香を引きずりながら、静かにその店をあとにした。また来よう。いや、また来ざるを得ない。なにせボクはまだ、カツカレーの呪いの中にいるのだから──。
カレーハウス ピヨ 川崎アゼリア店 (カレー / 川崎駅、京急川崎駅、八丁畷駅)
昼総合点★★☆☆☆ 2.5


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