暑いのでつけ麺でも食べよう。三田製麵所でつけ麺
さて、川崎である。灼熱の昼下がり、街を彷徨う中年男が一人、銀柳街のアスファルトを踏みしめながら「何を喰おうか」と考えている。これはただの昼飯ではない、文明と混沌と油の匂いが混ざり合った、都市型生物のサバイバル戦なのである。
だが困ったことに、腹は減っているのに、心が動かない。玉赤備?……いや、ダメだ。あの日のつけ汁のぬるさと、やる気のないチャーシューの記憶が、ボクの背中に冷たい汗を走らせる。記憶は舌を裏切らない。
となれば、いざとなったらココ、三田製麺所だ。チェーン店という存在は、異世界転生ものにおけるセーブポイントのようなものである。個性はないが裏切りもしない。ボクは券売機にコインを放り込み、冷やしつけ麺を選択。ついでに「休みだからね」という言い訳を盾に、生ビールをポチる。
しばしの間、泡立つ液体と戯れる。黄金色の炭酸が喉を駆け抜けるたびに、ボクの中の哀しみが一つずつ気化していくようだ。ああ、これが現代の救済だな、などと軽く酔いながら考えていると、つけ麺がやって来た。
見た目は、いかにも三田製麺所である。整った麺線、威圧感のない盛り付け、湯気をたてるつけ汁。ああ、これこれ。麺は冷え冷え、キリリと締まっており、まるで人生の迷いを断ち切るような歯ごたえがある。噛むと小麦の香りがふわっと口に広がり、ボクは思わず「あれ?これって幸福ってやつじゃないの?」と疑ってしまう。
つけ汁も、いわゆる「またおま系」だが、よく言えば安定感。悪く言えば既視感。だが今日のボクにはその安定こそが必要だったのだ。何かに裏切られたくない午後には、少し甘めの魚介豚骨がちょうどいい。
スープ割りは丁重に辞退。ぬるくなると感傷的になるからね。そして完食。箸を置きながら、ボクは唐突に「今度はから揚げを頼んでみようかな」と思った。評判が良いらしいのだ。油と衣と肉の宴、悪くない。
──そうやってボクの川崎ランチ戦線は、今日も無事終戦を迎えたのであった。

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