天丼がこの値段で食えるとは、なんて幸せなんでしょう。てんやで天丼

川崎に用事があった。あったにはあったのだが、たいした用でもなく、ましてやそれがあっけなく片付いてしまうと、人間というのは途方に暮れる生き物である。まだ昼にもなっていない。時計を見て、さてこの時間をどう始末すべきかと考えた結果、胃袋が「天丼を所望」と申した。胃袋に従順であることが我が信条なので、即座にてんやへ向かった。

ところで川崎という街は、都市のくせに意外に天ぷらを食べさせる店が少ない。寿司に至っては悲惨と言ってもいい。広島風お好み焼きなど影も形もない。筆者が広島出身であるという事実が、この評価に幾分かの偏りを与えている可能性はあるが、それにしても川崎、もう少しがんばって欲しい。広島県人としての矜持が震える。

てんやに着いてカウンターに座り、迷うことなくビールと天丼を注文。日曜日である。ビールくらい許してくれ。昼前のアルコールは人間をダメにするというが、むしろ僕はそれで救われている。しばしのち、やってきた天丼。ああ、見事だ。黄金色の衣をまとった天ぷらたちが、丼の上で陽気に踊っている。

早速口に運ぶと、これがまた実にちょうどいい。江戸前のベトベトしたタレではない。サラリとした甘辛タレが天ぷらとご飯の仲をとりもって、非常に円満な関係を築いている。エビ、キス、かぼちゃ、すべてが「今日は当たりですよ」と言いたげな顔をしている。ご飯が進む。とにかく進む。これはもはや炊飯器がかわいそうだというレベルである。

これがワンコイン、すなわち500円。世の中のあらゆる経済活動に喧嘩を売っているかのような価格設定である。いや、値上げするらしい。それでも550円。いいのか本当に。てんや、君はいったいどこへ向かっているんだ。僕はこれからも君を応援する。応援するから潰れないでほしい。ほんとうにうまかった。また来る。いや、来てしまう、きっと。

天丼てんや 川崎店天丼 / 京急川崎駅川崎駅港町駅
昼総合点★★☆☆☆ 2.5

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