野毛は大人のワンダーランド。八郎酒場 桜木町店で昼飲み

カミさんのリクエストで、野毛山動物公園に出かける。曇り空。気温は低く、肌寒い。こういう空気が好きだ。世の中全体が少し静かに思えるから。動物たちはほとんど寝ているか、小屋の奥に引っ込んでいる。唯一ライオンだけが異様にテンションが高く、地面が揺れるような咆哮を何度も響かせていた。乾いた音だった。少し怖くて、少し心地よい。

午前中いっぱい公園の坂道を上ったり下りたりして、そろそろ昼前。「下界に降りるか」とカミさんが言う。ぼくらは無言で頷き、階段を降り、野毛へ向かう。子供の夢が集まる丘から、大人の欲望が滲む町へ。境目は曖昧だが、空気の粘度が違う。

特に店を決めていたわけじゃない。暖簾が揺れていた店に吸い込まれるように入った。昼前だというのに数人の客が酒を飲んでいた。都市の、いい風景だと思う。ぼくらも遅れじと生ビールと串をいくつか頼む。テーブルに運ばれてきた串物は、艶めかしい油をまとって湯気を立てている。じゅうぶんに美しい。かぶりつくと、意外なほどにジューシーで、唇の裏に熱い肉汁がまとわりつく。「うまいな」とつぶやくと、カミさんは無言で頷いた。



調子が出てきたので、追加でモツ煮、厚揚げ、ポテトフライ。ジャンクと栄養のせめぎ合いみたいなラインナップだ。厚揚げが来た瞬間、ボクは確信した。「この店、ちゃんとしてる」。外側がパリッと揚がっていて、中は絹のように滑らか。醤油をひと垂らしして、口に入れる。熱い。けど、うまい。思わず目を閉じる。味覚が身体の芯まで降りてくるような気がする。


飲み物をお代わりして、次はシャリキンの酎ハイ。シャーベット状のキンミヤ焼酎。夏なら最高なんだろうけど、今日はちょっと寒い。なかなか溶けない。冷たい。喉に刺さるような感覚。でも悪くない。都市に生きることは、ときに冷たさに耐えることでもある。

満足して店を出る。ふたりとも少しだけ酔っていた。いい酔いだった。ぼくらは歩きながら、みなとみらいまで出た。途中、大道芸をやっていたので立ち止まって見た。あまりうまくなかったけど、風のせいかもしれない。パフォーマンスとは、風や気温、観客の空気感、すべての因子の化学反応でできている。だから都市は芸術を必要とする。千円札を帽子に入れて、黙って帰る。

また夏になったら来ようと思った。今度はもっと陽射しの強い日に。キンキンに冷えたシャリキンを、汗がにじむ手で持ちながら。

八郎酒場 桜木町店居酒屋 / 日ノ出町駅桜木町駅馬車道駅
昼総合点★★☆☆☆ 2.5

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