家系ラーメンの雄の川崎家本店でラーメン

久しぶりに晴れた平日の午後、僕は川崎駅から歩いて十数分の、あの家系ラーメンの聖地みたいな場所へと向かっていた。そう、川崎家の本店だ。ずいぶん長く休業していたらしいけれど、ネットで調べてみたら、どうやら再開したとのことだった。まるで昔の恋人がまた町に戻ってきた、そんな気持ちだった。

店の前に立つと、シャッターは開いていて、のれんが風に少し揺れていた。ほんの少しだけ、あの濃厚な豚骨スープの匂いが鼻先をくすぐる。券売機の前で立ち止まり、迷わず「茎わかめラーメン」のボタンを押す。これは僕にとって、いつもの、そして少しだけ特別なメニューだ。

カウンター席に腰を下ろすと、店内は拍子抜けするほど静かだった。昼時なのに空いている。コロナ禍がもたらした何かが、まだ町の呼吸の中に残っているのかもしれない。

運ばれてきたラーメンの丼からは、湯気とともに懐かしい匂いが立ちのぼった。スープを一口すすると、豚の出汁が深く、しみじみと染み渡る。味の輪郭がくっきりしていて、それでいてしつこさがない。これこれ、と思わず心の中で呟いてしまう。


そして茎わかめ。こいつがまたいい。コリコリとした食感が、もちっとした麺と対照的で、まるでジャズの即興演奏みたいにリズムを刻んでくる。スープとわかめと麺、その三者が口の中で完璧にハーモニーを奏でていた。

完飲したい衝動に駆られたけれど、来週には毎年恒例の「不健康診断」なるイベントが控えている。だから泣く泣く、丼の底にほんの少しスープを残す。ああ、健康ってやつは時々、味気ない妥協のようなものだ。

それでも、満足だった。また来よう。たぶん、季節が変わっても僕はここに戻ってくるだろう。そしてまた、あの券売機の前で迷わず茎わかめラーメンのボタンを押すのだ。まるで、何もなかったかのように。

川崎家ラーメン / 小田栄駅
昼総合点★★☆☆☆ 2.5

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