鶴見 金壱家で家系ラーメン
鶴見川の遊歩道を歩いていた。曇りがちな空の下、川面には灰色の空が鈍く映っていて、少し肌寒い風が首筋をかすめていく。もう夏も終わりかもしれない。そう思うと、ふとした瞬間に無性にラーメンが食べたくなる。
昼どきには少し早かったけれど、僕の腹時計はもう正午を過ぎていた。さて、どこで何を食べようかと自問しながら、未踏の家系ラーメン屋のことを思い出した。名前も覚えていないような、駅から少し離れた場所にある店だ。歩いているうちに自然と足がそちらに向かっていた。
店の入口にたどり着くと、「5のつく日はサービスデー」という手書きのポスターが貼ってある。今日は偶然にも25日だった。運命みたいなものかもしれない。食券機の前に立ち、迷わずネギラーメンのボタンを押す。野菜も摂らなきゃという、ささやかな抵抗だ。ご飯は無料だというので、ついでにお願いした。
カウンター席に座ると、すぐ隣では大学生らしき若者がスマホ片手に麺を啜っていた。厨房の向こう側では、てきぱきと無駄のない動きでラーメンが作られている。おそらくセントラルキッチン方式なんだろう。けれどそれでも、いいものはいいのだ。
やがて僕のネギラーメンがやってくる。白い器にたっぷりのシャキシャキしたネギと、濃い色のスープ。まずはレンゲでスープをひと口。豚骨のコクがしっかりとあって、どこか懐かしい味がした。麺は太めでモチモチしていて、茹で加減がちょうどいい。スープを吸ったネギが、いいアクセントになっている。
何も考えず、ただ夢中になって食べた。頭の中には音楽も物語も浮かばなかった。ただ、温かくて、うまい。それだけで十分だった。
食べ終えたとき、僕の中にはちょっとした満足感が静かに沈殿していた。大げさに言えば、それは人生の中のほんの小さな奇跡だったのかもしれない。外に出ると、風が少しだけ暖かくなっていた。腹が満たされた僕は、また鶴見川沿いを歩き出した。どこかへ向かっているようで、どこへも向かっていない、そんな午後のことだった。


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