つけ麺 大雄 向井町店 で 辛しつけ麺
僕たちは、いつだって何かを待っている。
たとえばそれは、ずっと前から気になっていたラーメン屋だったり、
たとえばそれは、2度もフラれてなお諦めきれなかった小さな願いだったりする。
3度目の正直。
そんな言葉を胸の中でそっと繰り返しながら、僕は鶴見の町を歩いていた。
空はどこまでも澄んでいて、午前と午後の境目に少しだけ揺れていた。
「大雄ラーメン」
鶴見界隈に3店舗あるというけれど、ここがその総本店。
のれんが風に揺れて、厨房からは湯気と炒め油の音が漏れてくる。
12時を少し回ったばかりの時間、ちょうど昼の混雑とぶつかる。
でも不思議なことに、数分と待たずに席に着くことができた。
——きっと、今日はそういう日なんだ。
辛子ラーメンがこの店の看板メニューらしいけれど、
今日の陽気には、もう少し清涼感が欲しかった。
だから僕は、辛子つけ麺を選んだ。中辛で。
席から見える厨房では、黙々と麺が泳ぎ、湯気がリズムを刻んでいる。
周囲を見渡せば、作業着姿の男たちが黙って麺を啜っている。
鶴見という町が持つ静かなエネルギーが、その姿から滲み出ていた。
やがて、唐辛子の赤が目を引くつけ汁と、艶やかな麺が目の前に置かれた。
湯気は立っていない。でもその分、香りが鮮やかだった。
ほんのり甘味を含んだ魚介ベースに、ピリッとした辛子が響いている。
麺をつけて、一口。
——うまい。
言葉にするとそれだけなんだけれど、なぜか胸の奥に落ちてくる味だった。
中辛にしたのは正解だった。
辛味が舌を刺すのではなく、じんわりと染み込んでくる。
咀嚼のリズムが落ち着くにつれて、体温も穏やかに上がっていった。
チャーシューは、厚みがあるのに柔らかい。
歯を入れた瞬間に、ゆっくりとほぐれていく。
それはまるで、長く会っていなかった誰かが、少し照れくさそうに微笑むような感じだった。
気がつけば、つけ汁はほとんど残っていなかった。
レンゲで最後の一滴を口に運ぶと、少しだけ鼻の奥がツンとした。
でもそれもまた、悪くない。
食べ終えて席を立つとき、どこからか風が吹いてきて、のれんが揺れた。
空はまだ青くて、光はどこか遠くまで届いていた。
——僕は、たしかにこの一杯を待っていたんだ。
そしてようやく、出会うことができたのだと思う。
つけ麺 大雄 向井町店 (ラーメン / 浅野駅、安善駅)
昼総合点★★☆☆☆ 2.5

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