【閉店】熱々のアジフライを頬張りたくなって。丸富食堂 新橋店 で アジフライ。
秋になると、世界の輪郭が少しぼやける。空気は冷たくなり、街の音もどこか遠くなる。そういう季節には決まって体調を崩す。食欲も落ちて、心のどこかに鈍い霧がかかったようになる。まるで、長いトンネルの中で方向感覚を失ってしまったような感じだ。
けれど、ある朝ふと目覚めると、その霧が晴れていた。何かがきっかけだったのかは思い出せない。ただ、確かに食欲が戻ってきたのだ。久しぶりに「飯を喰らいたい」という原始的な欲望が、体の奥から湧き上がってきた。そうなると、人間の行動は実にシンプルになる。つまり、僕はアジフライを食べに行くことにした。丸富食堂の、あのカウンターへ。
店に入ると、懐かしい匂いがした。厨房の湯気、焦げたパン粉の香り、漬物の酸味。カウンターに腰を下ろし、迷いなくアジフライ定食を頼む。「ご飯は大盛りでお願いします」と付け加えるのも忘れなかった。
ふとメニューを見ると、目当てだったもう一つの好物「サンマのぬか漬け焼き」が姿を消していた。心に小さな穴が開いた気分だった。サンマが獲れないのは知っているけれど、それでも少しさびしい。
そして、気になる「唐揚げ定食」——魚介専門のこの店で唯一の肉系メニュー——を思い出す。ずっと頼んだことがない。けれど、いつも誰かが頼まないかと、チラチラ様子をうかがってしまう。今日も誰も頼んでいないようだった。
そんなことを考えているうちに、アジフライがやってきた。
いつものように熱々で、衣はサクサクとしている。まずは何もつけずに一口。うん、これだ。心にしみる味。次に醤油をほんの少し垂らしてもう一口。ご飯が止まらない。できれば塩で食べてみたいが、テーブルには置いていない。代わりに、店特製のソースをかけてみる。これも悪くない。味が変わることで、また一口、もう一口と箸が進む。
胃が小さくなっているのを忘れて大盛りにしたものだから、後半は少し苦戦した。それでも、完食した瞬間、身体のどこか深いところが「ありがとう」と言った気がした。ようやく、自分が戻ってきたような気がした。
ごちそうさまでした。また、走れる身体に戻していこうと思う。秋はまだ始まったばかりだ。

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