海鮮丼を食べたくなって有楽町 魚○本店でご当地二種丼

昼前、なんとなく魚の気分だった。理由はよくわからない。ただ、頭の中に静かに潮の香りが立ち上ってきて、身体が自然と海に近いものを欲していた。そういうときは、下手に逆らわないのがいい。

有楽町のガード下近くを歩いていると、「ご当地二種丼」という看板が視界の隅に引っかかった。日本のあちこちからやってきた食材たちが、二つの丼に姿を変えて並ぶ。なかなかいいじゃないか。僕は足を止め、次の瞬間にはその店のドアを押していた。考えるより、身体が先に動いた。

このビルのフロアごとに違う「食の物語」が展開されているらしい。肉、魚、野菜。それぞれが静かに自分の役割を演じている。なるほど、以前ガード下にあった一群の店舗が、こうして生まれ変わったのか。まるで移動図書館みたいだな、と思った。

魚介から二つ、迷いに迷って「釜揚げしらす丼」と「マグロ納豆丼」に決めた。

肉系はまた次の楽しみに取っておこう。店内では、昼間から酒をあおるスーツ姿の集団がいて、少し酔っ払ったような声が天井にふわふわと漂っていた。OL風の女性たちも数人。ほどよく空いた席に座り、タバコの匂いにほんの少し眉をひそめながら、丼を待った。

ほどなくして、丼が二つ、僕の前にやってきた。

器の中に詰まった小さな世界が、ふたつ。思わず笑みがこぼれる。食欲よりも、むしろその美しさに胸が高鳴った。

まずは、釜揚げしらす丼。シラスがふんわりと盛られていて、ところどころにとびこの朱が弾ける。ひと口すくって口に入れると、潮の香りがすっと喉を抜けていった。塩気は控えめで、でも確かに存在していて、まるで海辺の町の風みたいだった。カミさんと僕の間で交わされた、茹でたシラス最強説を思い出した。

続いてマグロ納豆丼。卵黄が真ん中で輝いていて、食べる前から美味いことが確定しているようだった。マグロの赤と納豆の褐色、岩海苔の黒に卵黄の金。まるで色彩のジャズだ。食べてみると、その通りだった。旨味が舌の上で絡まり合いながら、ちゃんと着地する場所を知っている。考えた人は、確かにちょっとした天才だ。

岩のりの味噌汁で締めくくると、身体の中がすとんと落ち着いた。選べる丼の種類はまだまだある。たぶん僕はまた来るだろう。そして一つずつ、静かに味わいながら、記憶の棚にしまっていくのだと思う。そういう昼休みの過ごし方も、悪くない。

魚○本店居酒屋 / 日比谷駅有楽町駅銀座駅
昼総合点★★★☆☆ 3.0

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