ダブルスープが恋しくなって麺屋いし川で味玉ら〜麺

今日は午前中に片づけなきゃならない仕事を、まるで機械仕掛けの鎌みたいにバッサバッサとやっつけた。とにかく、すべてがきれいに片付いたわけじゃないけど、今この瞬間に残っているものは、僕の手からすり抜けていく水のような存在だった。だから時計を見て「昼だな」と思ったとき、僕は自然と立ち上がって、少し遅めの昼飯に出かけることにした。

外は思ったより涼しくて、その肌触りの中に、なぜか「ラーメンがいいんじゃないか」という声が小さく響いた。誰の声でもない、たぶん僕自身の声だろう。で、前から気になっていた麺屋いし川に向かうことにした。日比谷からの道はほとんど直線で、なのに妙に遠く感じた。いや、実際に遠かった。Googleマップによると1kmほどあるらしい。僕はいつもこの「1km」という距離を軽く見積もってしまう癖がある。

店に着くと、ご夫婦と思しきふたりが丁寧に「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。いい声だった。安心する声というか、感情のフチが丸く磨かれているような、そんな声だった。券売機の前でちょっと悩んで、結局、味玉ら〜麺にした。特製にするにはちょっと気後れしたというか、胃袋のキャパを少し心配したというか、そんな気持ちがよぎった。

席に案内されて、透明のアクリル板越しに厨房が見える。時間は13時近くだったけど、先客が5人ほどいた。僕は初めてなのに、ご主人の真ん前のカウンターに座ってしまった。目の前で丁寧にチャーシューを切るご主人の手元を、ついついジロジロと見てしまう。普段はあまりこういうのはしないんだけど、ここではまるで寿司屋のカウンターに座ったみたいな気分だった。小さな緊張と、静かな期待。

味玉を糸でスパッと切るその瞬間が、妙に記憶に残っている。糸っていいな、と思った。包丁よりも誠実に、卵の内部と対話している感じがする。そして着丼。ご主人がカウンター越しにそっと置いてくれた。これもまた、丁寧な仕事だ。

まずはスープから。おお、これは…青葉系の、あの魚介豚骨。青葉とはまた違う、どこか控えめで、でも芯のある味だ。魚介の香りがしっかり立ち、塩分と油分が絶妙なバランスで舌を撫でていく。グイグイと飲めるスープだ。麺は中太で、少し硬めに茹でてあって、その加減がまた素晴らしい。ちゅるちゅるっとすすれば、スープをまとって口の中でほどけていく。

チャーシューはもう、崩れてしまいそうなほど柔らかい。ああ、特製にしておけばよかったかもしれないなと思う。追加の2枚が恋しい。きっと次は特製にしよう。

聞けばご主人は中野の青葉出身とのこと。なるほど。でも青葉より油っこさが少なくて、僕にはちょうど良かった。あっちはたしか、食べ終わったあとに唇がテカテカになった記憶がある。

食べ進めながら、何度も「これはいい昼だ」と思った。スープは少しだけ残した。年末の健康診断が近いからね。塩分をちょっと意識したのだ。とはいえ、気持ちは満ち足りていた。寒くなる頃には、つけ麺もきっと良いだろう。そう思わせる一杯だった。

ごちそうさま。また来ます。なんというか、そう心から言いたくなるお店だった。

麺家 いし川ラーメン / 新橋駅虎ノ門ヒルズ駅内幸町駅
昼総合点★★★☆☆ 3.0

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